第一章 「鬼猫来る」

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 なんだか眠い。熟睡できていないせいだろう。そんなこと、わかっていてもどうしようもない。  なぜ、眠りが浅くなるのか原因がわからないのだから。  悩みがあるわけじゃない。勉強はまあまあだ。平均より少し下だけど、問題ないだろう。そもそも進学するか就職するかなんて今は考えたくはない。高校三年だし本当ならばしっかりと考えなくてはいけないのだろう。  自分の未来はどうなるのだろうか。このままだとニート生活とかになってしまうのではないか。まさか、そんなことはないだろう。  進学するならもっと頑張らなきゃ無理だろう。就職にしても同じだ。  加地大和(かじやまと)はそんなことを考えながら改札口を出て人の流れを邪魔することなく歩みを進めた。  あっ、猫だ。  足元をすり抜けていく赤茶トラ猫と一瞬目が合い立ち止まり振り返ったのだが、もう猫の姿はなかった。帰宅途中のサラリーマンや買い物帰りのおばちゃんが立ち止まった自分のことを怪訝そうな顔で見てくる。なんだか申し訳ない気持ちになり小声で「すみません」と口にしていた。猫に気がついたのは自分だけなのかもしれない。  んっ、本当に自分だけなのか。これだけ人がいたら何人かは気づいた人がいるだろう。けど、猫のことを気にする素振りをした人はいそうになかった。  うぅっ。な、なんだ。背後から物凄い圧が迫ってくる。見ていないのに感じる威圧感とはなんだ。人じゃないのかも。なんとなく『邪魔だ、どけ』とでも怒鳴られそうな気配がする。  恐る恐る振り返ると思わず大声を上げそうになり慌てて口を押えた。速度を上げて迫ってきたのは上背もあって横幅もある凄みのある力士だった。身体が強張り動くこともできずにいたら、身体をすり抜けていった。物凄い迫力に息が詰まる思いだった。今鏡を見たら蒼白した顔がそこにあるかもしれない。一瞬、異世界にでも飛び込んでしまったのかと錯覚した。そんなことはありえない。
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