第一章 「鬼猫来る」

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 それじゃ、さっき見た光景はやっぱり幽霊ってことか。普通の人には見えないものが見えてしまう自分を呪いたい気分だ。馬鹿なことを言うな。呪いたいなんて言葉は口が裂けても言うんじゃないぞ。  それにしても、あんな馬鹿でかい力士は見たことがない。大相撲に興味はないが確かあんな力士はいなかったはず。そういえば……。通り過ぎるときに感じた匂い。あれはなんだったのだろう。鉄だろうか。どうもはっきりしない。金属的な匂いだったことには間違いないだろう。  それに小さな大黒様は何を意味するのだろう。見間違いではないと思うが、打ち出の小槌ではなく剣を掲げていた。不思議な光景だった。もちろん、もう猫も力士も大黒様も見当たらない。力士の幽霊が身体をすり抜けたせいで体力を一時的に奪われてしまったのだろう。徐々に力が戻ってきている。  ちょっとどこかで一度落ち着いたほうがいいかもしれない。休んだほうがいい。  カフェでも寄るか。いや、そんな気分ではない。本屋でちょっと物色するのはどうだろう。いいかもしれない。  駅ビルにある本屋にでも寄って行こうか。そう思ったが小遣いも少ないこともありやめておくことにした。絶対に本を買いたくなってしまう。わかっている。それなら行かないほうがいい。今日は我慢しよう。
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