第一章 「鬼猫来る」

5/47
前へ
/157ページ
次へ
 高校生ではあるが、一人暮らしだ。親の仕送りで暮らしている。アルバイトもしていない。  アパートの大家さんと親が知り合いだから一人暮らしを許してくれたのだろう。何となく親元から離れたかったから自宅から離れた今の高校に通うことにした。けど、一人暮らしというものも思ったよりも面倒なことが多い。親のありがたみがわかるってものだ。  まあ、大家さんの猪田(いのだ)夫妻がよくしてくれるから普通の一人暮らしよりはずいぶん楽をしているかもしれない。毎日自炊をしなくていいことは助かる。  朝飯と夕飯は猪田家で食べているし、弁当まで作ってくれるのだから猪田夫妻には頭が上がらない。親元を離れたのになんとなく親のように思えてくるのが不思議だ。いや、年齢的には祖父母だろうか。頼めば洗濯までしてくれる。ちょっと頼り過ぎかもしれない。  そうだ、コンビニでモチモチ饅頭でも買っていってあげよう。こないだ『美味しいね』なんて喜んで食べていた。また買ってくるって約束もした。猪田夫妻の笑顔が脳裏に蘇る。モチモチ饅頭を買うことは決定だな。  んっ、いつの間にかさっきまでの嫌な気持ちが薄れている。身体の調子も戻っている。頭の切り替えができたのだろう。猪田夫妻のこと考えていたせいだろうか。ひとつ大きく息を吐き、歩き出す。 *
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加