第一章 「鬼猫来る」

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 そうか、霊的なものを見てしまうことが知らず知らずのうちにかなり体力を消耗している可能性もあるのか。幽霊に体力を奪われているって考え方もできるのかもしれないが、それはちょっと違う気もする。いや、違わないのか。  んっ、もしかして駅からアパートまでの通学が運動になっているのだろうか。片道二十分くらいは歩いている。往復で四十分だから、考えてみたらまったく運動をしていないわけじゃない。学校でも毎日ではないが体育の授業はある。基礎代謝がいいってこともあるのかもしれない。  あれ、なんでこんなことを考えているのだろう。どうだっていいことだ。とにかく猪田家に急ごう。モチモチ饅頭で笑顔になってもらおう。  んっ、あれは蛇か。  目を擦ってもう一度目を向けたが、蛇はいなかった。目の錯覚だろうか。蛇が黄金色に輝いていた。目の錯覚じゃないとしたら神の使いとかだろうか。  なんだろう。今日はやけにいろんなものを見る。  まあ悪意はなさそうだからいいか。けど、あの力士は……。  力士の顔がどこか怒りを込み上げた顔つきに思えて大和はブルッと身体を震わせた。自分に向けられたものではないのは確かだが、あの怒りはどこに向けられたものなのだろう。大黒様も剣を掲げていた。まさかと思うが、戦いに向かったなんてことがあるのだろうか。  あの世でも争い事はあるものなのだろうか。  いやいや、そんなことは考える必要はない。余計なことを考えて巻き込まれでもしたら最悪だ。というかもうすでに巻き込まれているのだろうか。  思い出しただけで身震いしてしまう。幽霊で驚かない自分があのときは息もできなくなったのだからしかたがないことか。過ぎたことは考えないようにしよう。  大和はかぶりを振って猪田家に急いだ。 ***
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