第一章 「鬼猫来る」

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幸吉(こうきち)さん、(てる)さん、いますか」  大和はいつも通り玄関からではなく縁側のある庭から声をかけた。  すぐに窓が開き猪田照が「おかえり」と口元を緩ませて出て来た。幸吉も奥から顔を覗かせてくる。 「モチモチ饅頭、買ってきたよ」 「そうかい、そうかい。そりゃいいね。あっ、そうそう、うちのチーちゃんが子猫を三匹産んだんだよ。早くおいで」  子猫が産まれたのか。  大和は縁側から急いで家に入る。 「大和ちょっとお待ち、靴がひっくり返ったままだよ。きちんと揃えなきゃダメだろう」 「あっ、ごめん」  大和は縁側に戻り靴を揃えて居間を通り抜けて隣の部屋に向かう。  そこにはまだ目の開いていない子猫が三匹、小さな声で鳴いていた。母猫のチーが三匹の子猫の身体を順番に嘗めている。チーは三毛猫だけど子猫はというと一匹は同じ三毛猫であとは赤茶トラ猫とキジトラ猫だった。父親がトラ猫なのだろうか。猫の子供って同じ柄じゃないことがよくあるから、なんとも言えないけど。  大和はなぜかその中の赤茶トラ猫に目が留まった。無性に気になる。駅で見かけた猫が赤茶トラ猫だったからだろうか。もちろん、同じ猫ではない。  ふと脳裏に『ネオン』との言葉が浮かび、こいつの名前にしようと思ってしまった。自分でもなぜネオンなのかわからなかった。赤茶トラ猫がネオンランプのように光ったように思えたからだろうか。目の錯覚だろうけど。
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