第0章 「はじまり」

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「狐さん、悪い奴らを懲らしめてね。僕をいじめる奴らを懲らしめてね」  荒巻徹(あらまきとおる)はみつけた隠し部屋でいつもと変わりなく手を合わせていた。  そのとき、階下から物音がして首を傾げた。  パパもママも仕事でいないはず。帰りはいつも遅い。帰って来たのだろうか。いや、きっと違う。じゃ、今の音はなんだろう。隣の家から聞こえたのかも。きっとそうだ。  小学三年から約一年引き籠りをしている自分のことはもう諦めてしまっている。どうでもいいと思っているはずだ。  パパとママが帰ってくるのは早くても夜の九時過ぎだ。いや、もっと遅いことのほうが多い。パパもママも嫌いだ。ううん、嫌いなんかじゃない。けど、パパとママは自分のこと嫌いなんだろうな。 「狐さん、僕はどうしたらいいのかな。やっぱりきちんと学校に行かなきゃダメだよね。わかっている。そうすればパパもママも僕のこと好きになってくれるよね。けど、ダメなんだ。悪い奴らがいるんだもん」  カタン。  えっ、やっぱり誰かいるみたいだ。  徹は隠し部屋の扉を閉めて、階段をゆっくり降りていく。  微かにだけど物音がする。リビングのほうからだ。ごくりと唾を飲み込みリビングへと足を向ける。  あっ、光だ。真っ暗な部屋から光が漏れている。懐中電灯の光だろうか。
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