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「鬼猫さん、鬼猫さん。愛莉だよ。大変なの、鬼猫さん」
鬼猫鎮神社の小さな社前で愛莉は声をかけた。いつもだったら、鬼猫が答えてくれるのに。返事はない。葉擦れの音が微かにしてくるだけだった。
おかしい。いなくなることなんて今までなかったのに。ここ一ヶ月くらい返事がなかった。やっぱり何かが起きているのかもしれない。もっと早く気づくべきだった。
ひんやりとする風が首筋を撫でていき、ブルッと震えた。
なんだかいつもと違う。そういえば、あたたかな気を感じない。誰もいないただの山の中みたいだ。神域ではなくなってしまったのだろうか。そんなことはないはず。
急にひとりぼっちになってしまった感覚になり帰りたくなってくる。
おかしい。
「鬼猫さん、本当はいるんでしょ。隠れていないで出来てよ」
愛莉は社の扉をゆっくり開けてみた。
あっ、そんな……。
社の中には鬼猫の魂の宿った木彫りの猫の置物が鎮座してあるはずだった。それが消えている。誰かに盗まれてしまったのだろうか。そんなはずはない。それならなぜないのだろう。
あっ、大黒様が。どうして……。
今はいない鬼猫の隣に鎮座していた大黒様がなぜか二つに割れていた。いや、割れているというよりも切断されている。やっぱり大黒様の気配もない。
どういうことだろう。
嫌な予感がする。
そうだ、力士の石像はどうだろう。社の裏手へと回り込む。
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