第一章 「鬼猫来る」

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 蝋燭だけが灯る薄暗い一室に胡坐をかいて徹はじっと祭壇をみつめた。背後からは微かにテレビの音声が耳に届いていた。パッパッとテレビの明かりも漏れてきている。 「狐さん、あの悪いおじさん捕まっちゃったよ。もうちょっと猫たちを懲らしめてほしかったのに」  庭にウンチしていく猫なんて赦せない。なにもしていないのにこっちまでとばっちりを受けたじゃないか。なんでママに怒られなきゃいけないんだ。悪いのは猫なのに。可愛い顔しているのに、酷いことする奴らだ。  猫もママも嫌いだ。捕まった悪いおじさんだって大っ嫌いだ。まだまだ罰が必要だ。 「狐さん、あの悪いおじさんももっと苦しめてほしいな。猫ももっと懲らしめてほしいな。そういえば鬼猫ってなんだろう。こないだテレビのニュースで言っていたけど、確か狐さんも言っていなかったっけ。よくわからないけど、みんな苦しめばいい」  今日は狐からの声がしない。どうして何も話してくれないのだろう。  悪い人はもっといるのに。  チラッとパパとママに目を向ける。もう怒鳴りつけるパパもママもいない。そこにいるけど、いないのと同じだ。凄く静かだ。なんでも言うことを聞いてくれるパパとママになってくれた。思い通りになるってなんて気持ちがいいのだろう。 「パパ、ママ、悪い人は天罰がくだされるんだよ。パパとママがいけないんだからね。行きたくない学校に行けって言うからいけないんだからね。勉強しろとか片付けしろなんて言うからいけないんだからね」  パパとママは虚ろな目をして壁によりかかって人形みたいに座っていた。  なんだかお腹が空いてきた。 「ママ、何か作ってよ」  ママはふらふらと立ち上がってキッチンへと無言で向かう。そんなママにチラッと目を向けて小さく息を吐く。  なんかつまんない。面白いことないかな。  徹はつけっぱなしのテレビから聞こえる声に耳を傾けた。  男の子の行方不明事件のニュースだ。
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