第一章 「鬼猫来る」

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 カコン。  んっ、誰かいるのか。植え込みあたりに目を凝らすと小さな鬼の後姿が闇に溶け込んでいくところだった。鬼かどうかはわからない。けど角らしきものが窺えた。あれが家鳴りの正体だろうか。幽霊だけじゃなく妖怪も見えるようになってしまったらしい。この世に妖怪は存在したのか。これはスクープだ。いや、そんなネタを新聞社に話したところで信じてもらえないだろう。映像でも撮っていたら、テレビ局に投稿できたかもしれない。 『驚愕、小鬼現れる』なんて。  そういう番組があったはずだ。  そんなことはいい。昼間から今まで見たこともないものばかり見ている。何かが起ころうとしているのかもしれない。この世の終わりとか。いやいや、そんな大事(おおごと)ではないだろう。大和は再び紙に記された文言をみつめた。  やっぱり、あの新聞記事と関係があるのだろうか。だとしても犯人は捕まっている。狙われる心配はなさそうだけど、違うのだろうか。  ふと一人の男の子の姿が思い出された。二階の窓からこっちを見ていた。目が合ったらカーテンを閉められてしまったけど。なんとなく気にかかる。顔色が悪かったせいかもしれない。病気なのだろうか。人の家のことだからあまり踏み込むことはよくないだろう。  なんで急に男の子のことなんか思い出したのだろう。再び、鬼猫からの警告を見遣り黙考した。関係があるのだろうか。なんとなく胸の奥がむず痒い。まあいいかと思いつつ自分の直感を投げ捨てることもできないとも思った。  すっかり目が覚めてしまった。まだ午前三時前だっていうのに。  ベッドに横になっていればそのうち眠くなってくるだろう。今は何も考えずに寝てしまおう。それがいい。大和は電気を消そうとしてまたしてもおかしなものを見てしまった。  いやいや、これはきっと目の錯覚だ。  寝る。絶対に寝る。さっさと電気を消してベッドへ潜り込もう。見なかったことにしればいい。けど、気になる。もう一度だけ……。  あっ、やっぱりいる。
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