第一章 「鬼猫来る」

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 なんで、大黒様がここにいる。大黒様の置物を買った覚えはない。それに普通の大黒様とは違う。  昼間見た、小さな剣を掲げた大黒様だ。これってどういうことだろう。  大黒様だろう。  ここにいるってことは福を招いてくれるってことか。いや、打ち出の小槌じゃなくて剣だから違うのだろうか。魔を祓ってくれるとか。そうだったら嬉しいが、何か嫌な予感もする。  これは吉兆なのか凶兆なのか。わからない。しばらく考え込んだもののいい答えはみつからない。 「あの、大黒様」  大和は背を向けている大黒様に声をかけてみた。返事はない。  やっぱり、ただの置物なのだろうか。そんなはずがない。買った覚えはないって言っただろう。ならば幻だろうか。目を擦って再び目を向けてもやっぱり大黒様はいる。  狙われているから守ってくれているのだろうか。いやいや、狙われているなんてことはないだろう。そう考えるとやっぱり悪戯なのかもしれない。そうか、さっきの小鬼の悪戯だ。妖怪とは人を驚かすことが好きみたいだから。けど、本当にそうなのだろうか。 「大黒様、あの」  大和はもう一度声をかけてみた。 「静かに。我は大黒でもあるが大国主(おおくにぬし)なり」  しゃべった。えっ、今、なんて言った。聞き間違いだろうか。 「なんだ、忘れてしまったのか。お主の前世は素戔嗚尊(すさのおのみこと)ではないか」  な、なに。前世が素戔嗚尊。嘘だろう。自分の前世がそんな人物だったとは。待て、待て。素直に聞き入れてどうする。自分の前世が素戔嗚尊のわけがあるか。けど、違うと断言はできないか。 「冗談じゃないよな」 「今世では情けない姿になったものだ」  それは認めざるを得ない。いやいや、ちょっと待て。情けないとはなんだ。人を馬鹿にして。ダメだ、相手のペースにのまれてはいけない。ここは冷静に。  ああ、冷静になんてなれるか。
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