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「まだ話は終わっていないぞ。庶民は皆、鬼呼ばわりされていたのだぞ。人なのに人で無しだぞ。妖怪だと言われた者もいるな。まったくおかしな世の中であった。身分が高い者だけが人だなんて片腹痛い。そうは思わないか。我らはそんな庶民の心の拠り所となれれば良いと思っていた。なあ、その点はどう思う」
「わかったから、もうやめてくれ。気が変になる」
「うむ、わかった。しかたがない、ゆっくり休め」
まったく何を言っているのやら。大黒様の話だと身分が低い人が鬼だってことか。ならば鬼はいないってことになる。妖怪もいないってことか。けど、さっき確かに小鬼を見た。身分か。確かにそんな話をどこかで聞いた記憶もあるけど……。
「なんだ、話が気になっているようだな。話してやるぞ」
「いや、それは……」
大和は一瞬だけ考えて「鬼も妖怪も実際にはいなくて、本当は人だったってことなのか」と訊ねてみた。
「うむ、それはちょっと違う。鬼も妖怪もいた。もちろん、身分の低い者たちのことをそう呼んでいたことも事実だがな」
なるほど、ならさっきいたのは小鬼なのか。
「違う。おそらく我の姿を見たのであろう」
大黒様は背を向けて剣を抱えると剣先を頭の上に少しだけ出して見せた。
なるほど、確かに暗がりだと鬼と見間違えそうだ。剣先が角に見えなくもない。
大和は納得した。
「なんだ、小鬼を見たと思ったのに残念だよ」
「よし、それでは鬼や妖怪について詳しく話そうではないか」
「あっ、それはいい。寝る」
「そうか、相撲始祖の話やオロチの話は面白いと思うのだがそっちがいいか。そうそう『鬼は外、福は内』の話もあるぞ。ふぅ、寝てしまったか」
大和は寝息をたてた。面白い話が聞けそうだとは思ったが話が永遠に続きそうな気がして寝たフリをすることにした。
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