第0章 「はじまり」

4/11
前へ
/157ページ
次へ
 最近ついていない。何をやってもうまくいかない。  宝くじでも当たれば腐りきったこの人生も好転するかもしれないのに。まあ、世の中そんなに甘くはないか。  薄汚れたヨレヨレの財布を見たところで金が増えることはない。千円札が一枚と小銭がいくらかあるだけ。少し前までは盗みも詐欺もうまくいっていたはずなのに、なにもかもうまくいかなくなってしまった。  なぜだと自問自答すればすぐにひとつの事実に突き当たる。思い当る節はある。  あの家に盗みに入ってからだ。不気味な笑みを浮かべる子供が頭から離れない。思い出しただけでも背筋がゾクゾクする。  そうそうあのとき追いかけようと階段を上ろうとしたらなぜか足を踏み外して転げ落ちてしまった。軽い捻挫で済んだからいいようなものあんなことはじめてだ。  そのあと二階に行く気がしなくて家を飛び出してしまった。だって二階から不気味な笑い声が聞こえてきたから。あれはなんだったのだろう。この世の者とは思えない笑い声だった。子供の笑い声には思えなかった。ならば、誰の笑い声だというのだ。化け物でもいたのか。そんな馬鹿なこと……。ブルッと身震いをして息を吐く。どうにもあの家は嫌な感じがしてならない。二度と行くことはないだろう。  最悪なのはそれだけではない。家に出てすぐに警察官と遭遇して追いかけられるはめになった。突然、逃げ出してしまったから怪しまれたのだろう。そうかもしれない。挙動不審に映ったのだろう。いつもだったら冷静に対処できただろうに。なぜか、慌ててしまった。ついていないことは続くものだ。  せめて、あの家から金目のものでも盗めていたら違っていたかもしれない。今更、そんなこと言ってもはじまらない。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加