第0章 「はじまり」

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 この坂道の上に民家があることを願おう。今はそれしかない。神社しかなかったとしてもお宝があるかもしれない。最悪、賽銭でも盗めばいい。いやいや、神頼みをして運をあげてもらおう。ご利益があるかもしれないじゃないか。  ふん、何を考えているのだろう。まあ、いいか。  重い足をなんとか上げて成瀬は登って行く。  ふと成瀬は思った。自分のような者が神社に立ち寄ったらご利益どころか罰が当たるのではないだろうか。あわよくば金目のものを盗もうと画策している奴がご利益だなんて片腹痛い。神様がそんな奴のこと助けてくれるはずがない。それに神主がいたとしても見抜かれるかもしれない。警察に連絡される可能性もある。だが今はそんなことを言っていられない。登るしかない。人がいることを期待するしかない。いい人を装いまずは食事にありつこう。  どれくらい登っただろうか。  開けた平らな場所に出た。だが、家らしきものはない。ぼんやりとする明かりがあるが、見た感じ小さな社と石碑のようなものが窺えるだけだ。 「くそっ、疲れ損じゃないか」  あんな明かりに期待するだなんて。  やっぱり、賽銭泥棒でもやろう。そう思ったのだが、賽銭箱がない。もうダメだ。腹は減るし、疲れるし、やっていられない。  こうなったら社の中に金目のものがないか探ってやる。念のため人の気配がないことを確認して社の扉をゆっくりと開く。  うーん、猫の置物に大黒様か。見た感じ高価ではなさそうだ。  ダメか。今からでも神様にお願いするか。ふん、神様が悪しき心を見抜いていないはずがない。『足を洗うから助けてくれ』と願ったところで嘘だとばれるだろう。心の声は丸聞こえだろうから。
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