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愛莉は踵を返して大和のアパートへと駆け出した。そのとたん、膝に痛みを感じた。チラッと見遣ると膝が血で滲んでいた。さっき膝から崩れ落ちたときに怪我をしてしまったのだろう。たいしたことはない。あとで消毒でもしておこう。今は一刻も早くここから立ち去るべきだ。
きっとさっき感じたものは警告だ。本当に祟り神なのかはわからない。怨霊だとしても相当強力な怨霊がいる。それとも妖怪だったのだろうか。まさか、本物の鬼がいるとか。本物の鬼は人を喰らうなんて話を聞く。
愛莉は身震いをして嫌な考えを振り払った。
いったいこの町に何が起こっているのか、さっぱりわからない。
中途半端な詮索ではこっちがやられてしまう。綿密な打ち合わせが必要かもしれない。こないだはまったく作戦を練れなかった。とにかく鬼猫が帰ってきたら話をしよう。
えっ、なに。
今、違う気を微かに感じた。温かくて包まれるような気を。それでいて救いを求めているような。
愛莉は立ち止まり、振り返ってみたがどこから感じたのかわからなかった。ただ水の匂いが微かに鼻を掠めた。
そう思ったら頭に冷たいものが落ちてきた。
雨だ。
雨の匂いを感じただけなのだろうか。愛莉は小首を傾げて空を仰ぎ見た。
雨脚が強くなる前に帰ろう。愛莉は大和の住むアパートへ向けて駆け出した。
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