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「僕は、僕は……。いけないことをしてしまったの」
誰に言うでもなくぼそりと徹は呟いた。
「もしかして、僕は孝くんと同じことをしているのかも。それって……やっぱりよくないことだ。そうだよね。ああ、どうしよう」
なんでそんなことをしてしまったのだろう。今更だがそんな思いが込み上げてきた。
「僕は、僕は、僕は……。ねぇ、狐さん、もう終わりにしようよ。もう嫌だよ。なんだか恐い」
笑い声がぴたりと止まり、突然目の前に黒い影が浮き上がってきた。
「だ、誰なの」
黒い影が人の形になっていく。鎧兜を着た武将の姿が浮き上がってきた。
「ここはどこだ」
武将が目だけを動かして様子を窺っている。
「誰なの」
「ふん、うるさい。おまえに用はない。鬼はどこだ」
「鬼なんてここにはいないよ」
「黙れ、小僧。殺されたくはないだろう」
武将は社があることに気がついたのか。跪き頭を下げた。何かぶつぶつと話している。狐と話をしているのだろうか。そう思っていたら武将の姿がまた黒い影となって煙のように立ち昇っていった。
「狐さん、なにがどうなっているの。教えてよ」
「終わりにしたいのだろう」
「うん、そうだけど」
「ならば、望み通りにしてあげよう。おまえのおかげで十分な力をつけられたことには感謝する。あまり苦しまず楽にいかせてやろうではないか」
「うっ、き、狐さん……」
徹は胸が苦しくて身悶えた。
「パパ、ママ……」
「すまない、苦しまずにというのは無理なようだ。どうやら邪魔立てする者がいるようだからな」
「き、狐さん。ど、どうして……」
助けて。パパ、ママ。ごめんなさい、ごめんなさい。く、苦しい。
ぐったりとして目を閉じたパパとママに向けて徹は手を伸ばした。
「ぼ、僕が悪かったよ。だから目を開けて」
目に溜まっていた涙が零れ落ちた。
***
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