第二章 「怨霊退治」

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「何をする蛭子(ひるこ)」  百目鬼は釣り竿から下がった釣り針に引っ掛かっていた。あれは恵比寿様か。けど、百目鬼は確か『ヒルコ』と口にした。大和は首を傾げて鬼猫の尋ねてみた。 「蛭子も恵比寿も同じだ。あいつはもっと別の呼び名があるぞ。夷三郎(えびすさぶろう)とか(えびす)の字も使うこともある」  鬼猫は念を飛ばしていろんな漢字の『エビス』を教えてくれた。 「『蛭子』はヒルコとも読むがエビスとも読むからな」  そうなのか。そう思いつつも頭が混乱してくる。 「それってややこしいね」 「愛莉、そう言うな。そうそう夷三郎については『エビスに(さぶろう)』となり『あっしゃ忌み衆でござんす』という意味もあるのだぞ。まあ、あいつも鬼の仲間ってことだ」  大和は髪をグシャグシャにして喚いた。  わけがわからないことが増えた。自分の頭では理解不能だ。  大黒様も恵比寿様も七福神の一人じゃないか。神様だろう。なのに、鬼なのか。 「百目鬼、ほらさっさと吐き出せ。おまえには荷が重すぎるだろう。消化不良で苦しむぞ」 「う、うるさい。あいつらなど一捻りであっけなくやられたぞ。荷が重すぎるなんてことはない」 「黙れ、釣り糸で雁字搦(がんじがら)めにしてやろうか」 「やれるものならやってみろ。返り討ちにしてくれる」 「それはどうかな。その前に、おまえの腹の中が騒がしくなってはいないか。ふぉふぉふぉ」 「な、なに」  百目鬼は突然腹を押さえて身悶えしはじめた。脂汗も掻いている。蛭子はその様子を見て棹をしならせて百目鬼を地面に叩きつけた。その衝撃で百目鬼の口から何かが飛び出して来た。  あれは大黒様だ。あっ、当麻蹴速も。  嘘だろう、あんな巨漢の力士まで呑み込んでいたのか。百目鬼も力士に負けず大きいがどう考えても呑み込めないように思えるのだが、実際に吐き出したのだから呑み込んでいたのだろう。
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