第二章 「怨霊退治」

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「さてと、次は狐でも釣り上げるとしようか」  恵比寿様ってなんだか近づき難い存在だ。今までは楽し気な笑顔に見えていたけど、どうにも不気味な笑顔に見えてくる。考え過ぎか。福の神だと思っていたほうがいい。 「なんだ、顔になにかついているかのぉ。ふぉふぉふぉ」 「いえ、別に」 「大和とか言ったかのぉ。釣りは楽しいぞ。今度一緒にどうだ」  大和は苦笑いを浮かべて誤魔化した。恵比寿様と釣り、悪くはない。きっと大漁になるだろう。けど、なんだろう。ちょっと距離を置きたい気がする。 「そうだ、成瀬から伝言があった。『すまなかった』だとさ」 「なに、やっぱりおまえがあいつの目を奪ったのか。それで『すまなかった』と口にしたのか」 「あいつは盗人で詐欺師でもある犯罪者だが殺しだけはしたくなかったってよ。常に怨霊に操られないように戦っていたらしい。だが猫を何匹も殺してしまった。怨霊が離れて罪の意識に囚われちまったんだろうよ。あいつは自殺したんだ」  そうだったのか。ある意味、成瀬も被害者ってことか。悪には違いないが、機会をあたえたらもしかしたら更生できたのかもしれない。  そうか、車のトラブルがあったとき成瀬が追って来なかったのは、成瀬の心が怨霊を引き止めていたってことか。きっとそうだ。  んっ、自殺だったなら片目がなかったのは……。そんな疑問が浮かぶと鬼猫と目が合い口角を上げた。すると鬼猫は百目鬼に目を向けて口を開いた。 「成瀬の目を奪ったのは百目鬼おまえだな」 「ああ、どうせ死ぬんだったら目の一つくらいいいだろうって思ったまでだ」  そういうことか。  大和は納得したと同時に身震いした。百目鬼の体の目は人から奪った目なのか。自分の目も奪おうとするのではないか。 「ふん、おまえの目は奪えない。こんなにも守りが堅いのだからな。ちなみの成瀬の目はここにあるぞ」  百目鬼が指差した目がパチリと瞬きをして、大和はゾワゾワと鳥肌が立った。 ***
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