暖かい手

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ここは田舎の片隅にある小さな茶房。 一見すると小さな二階建ての日本家屋。けれど東には人の世に繋がる橋を持ち、西にはアヤカシの世に繋がる橋を持つという、一風変わったお店。 名前は『幻橋庵(げんきょうあん)』。 私こと高橋小春(たかはしこはる)は、訳あってこのお店で泊まり込みのバイトとして働いている。 「あのお客さん、アヤカシだよね…?」 ふと、浮かんだ疑問を呟く。人のような姿ではあったけど、あの出で立ちで人間だったら逆に怖い。 私はバスタオルを手に、恐る恐るお店へと戻った。 「ああ、ありがとう小春」 そっと顔を覗かせると、右門さんがバスタオルを受け取ってくれた。 お礼を言いたいのはこちらの方だったのだけれど……それよりも気になる光景が目に入って、私の口からは感謝ではなく質問が飛び出てしまう。 「右門さん、あれは一体……?」 私の視線の先には、お店の中心で仁王立ちになって向かい合う男女。 こちらに背を向けているのが左門さんで、その向こうにいるのは先程のお客さんだ。 密やかに流れるピアノのBGMと、外から聞こえる雨音がなんだかシュール。他にお客さんがいなかったのは幸いかもしれない。 「さっきからあんな感じでね」 右門さんは困ったように微笑むと、お客さんへとバスタオルを持っていく。 濡れた床を拭くためにモップを持ってこようか悩んでいると、お客さんが口を開いた。 「だから枯れたいと言っている。対価は私だ。それでいいだろう?」 今、すごい話が飛び出たような…! 思わず目を丸くしてお客さんに見入ってしまう。 けれど、向かい合う左門さんが動じることはなかった。それどころかフンと鼻を鳴らして「話にならんな」とお客さんの提案を一蹴する。 「お前は自分の価値を分かっているのか?帰れ。対価が軽すぎて取引にもならん」 普段、何だかんだ言いつつアヤカシの相談に乗ってあげている左門さんにしては、珍しく険のある言い方。苛立っているように感じるのは気のせいだろうか? お客さんは拳を強く握り、左門さんを正面から睨みつけた。 店内の空気がどんどん冷えていく気がする。いつもは仲裁に入ってくれる右門さんも、何故だか静かにやり取りを眺めているだけだ。
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