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「起きてください。そのままでは風邪をひいてしまう」
誰かの声が聞こえる。
少しだけひび割れたような、落ち着いた低い声。
体を小さく揺さぶられ、私は促されるように目を開けた。
真っ先に飛び込んできたのは、空を覆い尽くす木々の緑。そして……
「大丈夫ですか?」
横から私を覗き込んでいる、白い綺麗な顔の男の人だった。
「え?あ、はいっ?」
慌てて飛び起きると、そこは森の中だった。
ここは一体どこなんだろう?立ち上がって周りを見回しても、目に入るのは転がる岩や生い茂る木々ばかり。
「申し訳ありません、彼女が貴方に無体を働いたようで……」
男の人の言葉に、私は何が起こったのかを思い出した。そう、あのお客さんに攫われたんだ。どうやら途中で気を失ってしまったらしい。
「あの、貴方は……」
私は男の人を振り返り、その奇妙な出で立ちに気付いた。
大きな岩に背を預けて座っている男の人。整えてあったであろう黒髪はほつれ、墨色の着物は薄汚れてあちこち破れてしまっている。
何より奇妙なのが、破れた着物から覗く植物。それは男の人から生えて、空に向かって枝葉を伸ばしているように見えた。
「これはヤドリギです」
私の視線に気付いた男の人が、着物の胸元から覗く葉を撫でる。
そのぎこちなく動く指先に、遅れて気付く。白い手の形は、まるで……
「……貴方は、アヤカシ?」
私の問いに、男の人は口元を微かに緩めた。
「それに近いものかもしれませんね。私は、人が作り出した人形です」
人形の体を軋ませると、男の人は座ったまま一礼した。
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