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「しかし、私達人形も己の望みを持つらしい。ある者は身体能力を活かし旅芸人に、ある者は人に惚れ込まれて妻にと……一人、また一人と、主の元を去っていきました。主はそれを子供の巣立ちだと喜んで見送ってくれた。それがまさか、あんな事になるとは……」
「あんな事、とは……?」
途端に暗く沈んだ声に胸騒ぎを覚える。私は胸を抑え、話の先を促した。
「……盗人に身を落とした一人の人形が、人を殺しました」
「そんな……」
感情をあえて込めずに発せられた言葉。けれど声の無機質さが逆に、その事実が時雨さんをどれだけ傷付け苛んだのかを伝えてくる。
「私達の心も人と同じ、善にも悪にも染まります。けれど、人にとって私達は格下の存在。そのひとつが牙を剥けば、残りも危険だと思うのは当然でしょうね。やがて人による人形狩りが始まりました。私は残された兄弟と共に主を連れて逃げ出しましたが、追手は追跡の手を緩めず……結局、主を末の兄弟に任せ、私は囮となり……そして、ここに封じられた」
そう言って時雨さんはヤドリギを指し示した。
「私は頑丈で人の力では壊せなかったようです。だから追手の術師は、私に力を吸い取る術を込めたヤドリギの種を植え、この場に縫い留めた」
「でも、ヤドリギさんは時雨さんを解放したいんですよね?」
「ええ、彼女は己を作り出した術師の意図に反して、私を解放しようとしている。恐らく術士は私がここまで生き長らえるとは思っておらず、ヤドリギに自我が芽生えるなどとは想像もしていなかったでしょう」
ようやくヤドリギさんの願いが見えてきた。
時雨さんを解放する方法、そしてヤドリギさんのあの言葉。
「じゃあ……枯れたいっていうのは、まさか」
「――そう、」
時雨さんは頷いて目を閉じた。
その横顔がまるで痛みを堪えているように見えたのは、私の気のせいだろうか。
「彼女は、私を解放する為に枯れようと……死のうとしているんです」
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