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「――成程な、そういうことか」
突如聞き覚えのある声が降ってきて、私は驚いて顔を上げた。
「左門さん!」
いつからそこにいたんだろう。左門さんは時雨さんがもたれ掛かる岩の上に立ち、こちらを見下ろしていた。
「うむ。無事だな、チビ春」
左門さんは私に頷きかけると、岩から飛び降り目の前に着地する。
「何者かの指示で動いているなら大元を叩かねばと思ったが、違ったようだな」
「だからと言って、許される事ではないけれどね」
次に聞こえたのは右門さんの声。視線を巡らせると、縄で縛られたヤドリギさんを引き連れた右門さんが、岩の後ろから現れた。
ヤドリギさんは顔をしかめながらも逃げる気はないらしく、大人しく右門さんについてくる。縄にお札が貼っているところを見ると、逃げ出さないように何かの術がかけられているのかもしれない。
「幻橋庵の方々ですね。縫いとめられている身ゆえ、座ったままご挨拶する無礼をお許し下さい。私は時雨と申します。この度は私のヤドリギが大変申し訳ございませんでした」
軋む体を折り曲げ、深く頭を下げる時雨さん。
「謝罪で済む問題ではないと思うが?」
対する右門さんはにべもなく、別人かと思うほど冷たい声で切って捨てる。その顔には、今は何の感情も浮かんではいなかった。
怒っているんだろうか。いつもの笑顔が消えただけなのに、怖くて近寄り難い雰囲気がある。
「無論、謝罪で許されるなどとは思っておりません。しかし彼女は生まれて間もない子供のようなもの。どうか罰はこの私に……」
「なんで!時雨は何もしていない!」
頭を下げたまま続ける時雨さんにヤドリギさんが吠えた。暴れて時雨さんに駆け寄ろうとするけれど、右門さんの抑える力が強いのか一歩も近づけないようだ。
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