暖かい手

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「右門、ひとまずその娘を放してやれ」 「左門、これを許すの?小春を狙ったっていうのに」 「それはそうだが、肝心のチビ春がお前を怖がっているからな」 「へぇっ!?」 唐突に話題を振られて私は飛び上がった。 右門さんの視線がこちらに向けられて、自然と背筋が伸びてしまう。 確かにいつもと雰囲気の違う右門さんは怖かったけれども!今話題を振られて私はどうすればいいのか! なんだか変な汗まで出てきた気がする。 右門さんは姿勢を正したまま固まる私をしばし眺めると、小さく息をついて私に手を差し出した。 「小春、こっちへおいで。君がそちらにいたんじゃ気が気じゃない」 まだ硬さは残っているけれど、その声はいつもの右門さんだ。 時雨さんが私に何かするとは思えない。けれど追ってきた二人からすれば、人質がいつまでも相手側にいるのは心配なのかもしれない。 私は右門さんに頷くと立ち上がった。 差し出す手にそろそろと自分の手を重ねると、そっと引き寄せられる。代わりにヤドリギさんの縄が解かれ、彼女は時雨さんの名を呼んで駆け出していった。 「小春、怪我はない?君が巻き込まれるとは思わなくて……ごめん、怖い思いをさせたね」 「俺達も考えが甘かった。すまなかったな、チビ春」 重ねた手を優しく握って、こちらを気遣わし気に覗き込む右門さん。 いつものような髪をかき混ぜるような撫で方じゃなくて、労わるように頭を優しく叩いてくる左門さん。 二人の気遣いと伝わるぬくもりにほっとして、自然と笑みが浮かんでくる。 心配かけたことは申し訳ないけれど、でも、心配してくれたことが嬉しい。 「ありがとうございます、右門さん、左門さん。私は大丈夫です。それに……」 私はヤドリギさんに向き直った。時雨さんの前に立ち両腕を広げる彼女は、まるで彼を守ろうとしているみたいだ。 「そうまでして、叶えたい願いがあったんですよね?」 「……そうだ」 低く唸るようにヤドリギさんが答える。
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