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「ご飯は?」
「先にビールをいただこうと思って」
「もー、ご飯くらい炊けばいいのに」
「あ、俺唐揚げ食べたい」
「今から?」
もう9時なのに今から作るの?
「今日は金曜日だよ、遥音。夜はまだ長い。そして俺は遥音の手料理が今食べたい」
眉間にしわを寄せるあたしに、愛嬌たっぷりの彼は我儘を炸裂する。
慌てて冷蔵庫を開けるが、昨日友だちが部屋に来たこともあってか、空っぽに近い状態だ。
「買ってこなきゃ何もないよ」
はぁっとため息をつきながら、お財布を持ったあたしは、玄関で靴を履く。
すると、それまでビールに心を躍らせていた彼が、まるで小学生のように後をついてきた。
「スーパー行くの?」
「そうだよ、何もないもの」
「俺も行く」
にこっと笑った彼は、靴を履くあたしの隣で、履いてきた自分の靴に足を突っ込んだ。
「いいよ、泰西が一緒に来たら絶対お酒買うじゃん」
「いーじゃん、仕事の後のビールは最高じゃん」
「今あたし3000円しかお財布に入ってないよ。泰西のお酒買ってる余裕なんかないの!」
「酒の亡者め!」と叫んだあたしは、部屋を出た。
イケメン、と言ったら、その範囲に入るのだろう。
高い背丈に、長い手足。
色は控えめだが大きな唇に、すっと通った鼻筋と日本人にしては高い鼻は、所謂Eラインを絶妙な形で作り出し、横を向いても美人顔だった。
外見はとりわけ目立つわけではないが、そのシルエットはいかにも「チャラ男」。
しかし、お酒やタバコは日常茶飯事のくせに、あたしの前では極力控えているのを、知っている。
仮にも人に教える立場である彼は、人の手本となるべく、いつだって「内面の誠実」を醸し出していた。
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