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今こうやって彼女たちを優しい目で見られるのは、年という経験を重ねたからだろう。
だからといって、彼女たちを馬鹿にしたりはしない。
あたしも中学生の時はお気に入りの先生と話したくて、よく職員室に出向いたのだから。
まぁ、それでも思うことは
「夢は夢だよ」
「夢?」
不意に吐露した言葉に、買い物かごを持つ泰西は首を傾げた。
「ねぇ、泰西、生徒たちはかわいい?」
「なに、急に。まあ、可愛いよ、最近の話題についていくのは大変だけど」
「泰西でもついていけないことあるんだ?」
「あるある。去年受け持った女子生徒が少女漫画読んでたんだけど、どこがいいんだこの男の!? って思うくらい不思議なヒーローでさ。「俺コイツの魅力よくわかんないわー」って言ったら「うそでしょー!?」って。わかんねーよ、知らねーよー。大体女と男の思考回路は違うんだよ」
ツンっと唇を尖らせて、年に似合わず不貞腐れる泰西。
「ねー、不貞腐れないでよ、もう30でしょ?」
「俺も人間だからね、30を超えても、腹立つときは腹たつし、理想に近づけなくて嘆くこともある」
「そうなんだ。生徒たちは泰西を慕うばかりだと思ってた」
「慕われるのは嬉しいけどね」
「実は泣き虫で寂しがり屋とか知ったら生徒たちは幻滅するのかな?」
「…遥音」
レジでお金を払っているあたしの後ろを通り過ぎて、カゴを台に移した泰西は、慣れた様子でバックの中に食材を詰めていく。
一緒に袋に詰めていると、光に反射したガラスの向こうにいる、暗闇の中の自分の姿をつと見据える泰西。
そして、小さく息を吐いた。
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