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ある春の日
その日は雨だった。雨の降る街と異名を持っていた僕の故郷で傘もささずに倒れている僕に
傘を貸してくれた。
客観的な風景としてはそれで十分だった。
雨に打たれる誰かに傘を貸してあげる。
「君が私にしてくれたことよ」
彼女はそういった。
「君はかっこいいんだ」
このまま降り注ぐ雨にでも溺れることができたら・・・。
顔を滴る雨を感じながら思っていた。
「僕は何も出来ない・・・」
声の震えが寒さのせいだったら良かったのに。
それだったらこんなに自分の惨めさを感じずに済んだのに。
「そうだね・・・君は何にも出来ない」
余計なことを何一つ話さない。
そういえば、初めて会った時も必要最小限のことしか話さなかったな。
少年は気を紛らわすために過去に想いを巡らせた。
彼女の表情は優しかったし、事実心が安らいだ。
しかし、どこかが虚ろだった。
「君は何も出来ない・・・でも格好いいんだ」
ユキナと名乗った少女はその初対面とは程遠い。
「・・・ありがとう」
少年・・・アイはそのままその意識を失った。
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