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彼がその移動販売車に惹かれたのは、「ホットドッグ」と書かれた看板があまりにも雑だったからだ。
便所の落書きの方が遥かに人の購買意欲をそそりそうな看板が少年のバイクを止めされた。
バイクを停車させた後に不意にツンとした潮の香りが漂う。
運転中には感じられなかったものに、「なるほど、たまに止まらなきゃ分からないんだな」とまたひとつ旅の醍醐味を知った。
「すいません」
言葉が通じるのかがまず不安だった。
故郷を覆う巨大な壁を抜けるは初めてであったし、その外側がどうなっているかなど、話には聞いても想像するしかない代物だった。
曰く、外の人間には手が三本ある、火を吐く、目を合わせたら石になる・・・などだ。
まるで、怪物たちから身を守るために城壁を築いたみたいだな、と感じていた世界観は拍子抜けするほどに崩された。
野犬は怖かったが、たまにキャンプを張っている人間はみんな普通だった。
言葉も通じたし、うなってもいなかった。
言葉も通じない人間もいたが、必死に考えを伝えようとしてくれている感じがむしろ同じ人間なんだと安心させてくれた。
「今・・・販売してますか?」
恐る恐る中を覗いてみるとそこには誰もいない。
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