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なつの日
時々、あの時のことを思い出す。
高校3年の夏。
その年最高に暑くて、いつもよりセミがミンミンうるさかった昼休み、だった。
アイスバーをかじりながら、校舎から離れたプールへと続く階段でぼうっとしていた。
そこへ隣のクラスの大島晴彦がやって来て、突然告白された。
あまりの不意打ちで、瞬間、あれこれと逡巡し出てきた言葉は
「へ」
と、間の抜けた声だった。
俺を見ているか定かでない、泳いだ視線で見ていたが逃げ出すこともなく、
ぽつりぽつりとまじめな口調で理由を述べた。
詳細までは覚えていないが、俺のさっぱりしている性格に惚れた、とか言っていたと思う。
生徒会選挙の演説みたいに一生懸命に俺に伝えていた。
今なら「一生懸命に」と言えるが、当時の俺はそんなこと微塵も感じ取ることもできず
「意味がわからない」とだけ発して、終わった。
晴彦は「そう」と言葉を残し詰め寄ることもせず、さっとその場を後にした。
夢かと思うくらい、一瞬の出来事だった。
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