なつの日

1/9
前へ
/12ページ
次へ

なつの日

 時々、あの時のことを思い出す。 高校3年の夏。 その年最高に暑くて、いつもよりセミがミンミンうるさかった昼休み、だった。 アイスバーをかじりながら、校舎から離れたプールへと続く階段でぼうっとしていた。 そこへ隣のクラスの大島晴彦がやって来て、突然告白された。  あまりの不意打ちで、瞬間、あれこれと逡巡し出てきた言葉は 「へ」 と、間の抜けた声だった。  俺を見ているか定かでない、泳いだ視線で見ていたが逃げ出すこともなく、 ぽつりぽつりとまじめな口調で理由を述べた。 詳細までは覚えていないが、俺のさっぱりしている性格に惚れた、とか言っていたと思う。 生徒会選挙の演説みたいに一生懸命に俺に伝えていた。 今なら「一生懸命に」と言えるが、当時の俺はそんなこと微塵も感じ取ることもできず 「意味がわからない」とだけ発して、終わった。 晴彦は「そう」と言葉を残し詰め寄ることもせず、さっとその場を後にした。 夢かと思うくらい、一瞬の出来事だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加