源 治

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 あの日から2週間後、源治は夢湯治へ戻ってきた。 「この度は、多大なご迷惑をお掛けしました。  また今日から、よろしくお願いします」  そういうと、源治は深々と頭を下げた。 「源治さん…本当に大丈夫なの?」  好美が心配そうに声を掛けた。 「まぁ、今のところは…普段と変わらないな」  源治は何もなかったかのように言った。  そして、以前のように敷地内を回って掃除をし、五右衛門風呂の火を確認した。  隆史をはじめ、周りの従業員は心配そうに見ていたが、当の本人は全く意に介さず、淡々と自分の仕事をこなしていた。  そうするうちに、周りの従業員も慣れてきたのか、遠目から様子は伺うものの、過剰に心配することはなくなった。  源治は精力的に働いた。  さすがに力仕事はしなかったが、敷地内をよく動き回り、手の足りないところを率先して手伝った。  その姿に、中には病気さえ疑う者もいた。  時間は平穏に過ぎていき、季節はやがて春を迎えようとしていた。
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