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一方、源治は静かだった。
自分の半生。夢湯治とともに生きてきた。
破天荒な青年期だった。
それを救ってくれたのが、先々代の主、今のご隠居だった。
行く宛ての無い自分を、家族同然として迎え入れ、一から風呂のことを教えてくれた。
初めて人の優しさに、温もりに触れ、自分の存在を肯定できた。
それから40数年。
先代とも力を合わせて、一心不乱に夢湯治と共に歩んできた。
そして今、3代目にもお世話になって。
俺は戻りたい。
でも、身体が言うことを聞かなくなってきた。
もう年かな。
最後に、若旦那に会いたい。
若旦那に会って、俺の想いを伝えよう。
源治は病院のベッドを半分上げて、窓の外を見ながら、自分の死期を予感した。
そんな最中、病室の扉が開いた。
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