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半 生②
源治があの土地にやって来たのは、20代初めの頃だった。
その頃、まだ町ではなく村で、田園風景の広がる、それはそれは閑散とした場だった。
行く宛てもなく、流れに流れてたどり着いたその村に、源治は一人降り立った。
源治は8人兄弟の8番目で、実家は農業を営んでいた。
農家の8番目ともなると、特に目を掛けられることもなく、農業を手伝う毎日が嫌になり、家出同然で、源治はこの村にやってきた。
やって来たはいいが、身寄りもないこの土地で、どう生きていくか…目の間に希望などは欠片もなく、これからの生活に対する不安ばかりが募っていた。
村の中をふらりと歩いていると、たまたま通りかかった道の脇に、小さな温泉を見つけた。
古風な造りのその温泉は、地元の方が日頃の疲れを癒す場として使われているようで、夕方の時分にはたくさんの地元民が集まっては、談笑していた。
そんな光景をぼんやり眺めていると、一人の男が源治に声を掛けた。
「お兄さん、見ない顔だな。この辺の者じゃないだろう?」
気さくに話しかけてきた男、それがこの夢湯治の亭主だった。
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