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夢湯治の亭主は源治をひとまず風呂に入れてやった。
とやかく理由は聞かなかった。
見るところ、行く宛てもない流れ者というのが分かったのだろう。
源治の話を親身に聞いてやりながら、ひとまず一晩泊まっていけと言ってくれた。
温かい夕食をごちそうになり、源治はこの土地の温かさに触れた。
次の日、亭主に手伝いを願い出て、風呂掃除や庭掃除を手伝った。
掃除が終わると源治は亭主の前に土下座して、願い出ていた。
「もし可能なら…ここに雇っていただけませんか?
私にはもう行く宛てはありません。
家に戻ったところで、何があるわけではありません。
給料はいりません。
ただ…この土地で生かせていただけんでしょうか?」
源治は一心に亭主にお願いした。無茶苦茶な申し出とは重々分かっている。
しかし、源治にはそれしか方法がなかった。
亭主は一旦黙り込んだものの、優しく源治の肩を叩き、部屋を用意してくれた。
その日から、源治の夢湯治での第二の人生が始まった。
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