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源治はよく働いた。
朝早くから、夜遅くまで、身を粉にして働いた。
周りの者が心配しても、手を足を止めることはなかった。
弱音、愚痴の類は全く吐かずに、ただただ恩義を返したくて身体を動かし続けた。
そうしている内に、地元の方々とも打ち解けていった。
流れ者の源治を怪しむ人はいなかった。
源治の誠実に働く姿を、周りも認めたのだ。
風呂の仕事だけでなく、時には常連客の家へと出向いて、農業を手伝うこともあった。
農業の方は手慣れたもので、大変喜ばれ、たくさんの野菜や米をいただくこともあった。
亭主の息子とは年が十近く離れていたが、夜遅くまで風呂の掃除を一緒にする間に、自然と距離が縮まっていった。
「俺と源治さんで、この温泉を日本一にしようや」
いつしか二代目は源治にそんな言葉をかけるようになった。
2人はまだ若く、二代目はまだ十代。
2人は夢を共有する仲となった。
「俺は、ここで生きていく」
源治の中で、核心が出来上がった。
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