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「真澄さん…
私は貧乏農家の8番目として、この世に生まれました。
農家の8番目ともなると、特に目を掛けられることなく、一労働力として育てられました。
長兄は家を継ぎ、その他の兄姉は別々の家へと出ていく中、私はこのまま農家として平然と生きていくことはできませんでした。
何がしたい訳ではなかった。でもそこには居たくなかったのです」
源治は目の前に広がる田園風景を真っすぐ見つめ、続けた。
「流れに流れ着いたのが、この村でした。
流れ者の私を、この村は温かく迎えてくれました。
今は小さな温泉場に勤めています。
決して多くはありませんが、お給料を戴ける身にもなりました。」
源治は生唾をごくりと飲んだ。
「実は…その…今日ここであなたに会って分かったんです。
私は雲海ではなく、あなたに会いたいがために、ここに足を運んでいたのだと。
今日初めて、そのことに気が付きました」
源治はそこまで言い終えると、急にうつむき、黙ってしまった。
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