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父 清隆
清隆は、厳格な父親だった。
温泉場『夢湯治』の二代目として、祖父の意思を受け継ぎ、たくさんの人によい一日の終わりを届けようと、毎日隈無く敷地内を見て回った。
そして、ことあるごとに隆史を呼んでは言った。
「いいか、隆史。
俺たちは温泉屋だ。
温泉屋の使命は、お客さんたちの笑顔だ。
『あー今日も一日、よー働いたー!えぇ一日やったー!』と、一日を満足してもらえること、そして明日への力を蓄えてもらうことだ。
ええな」
「うん。分かった」
「違う!『はい。分かりました』だ!」
清隆は笑いながら、幼い隆史の頭を激しく撫でた。
隆史は小言を言われながらも、その言葉を何回も聞かされて育った。
良い一日を届ける…。明日への力を養ってもらう…。
それが自分に与えられた役割ということを、隆史は知らず知らずのうちに心に焼き付けられていた。
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