半 生②

10/12
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
 その日は朝から晴れ間が出て、霧は全くなかったが、源治は何の気なしに神社へと上がった。  今日は彼女はいないだろうな…そう思いながら高台へと向かった。  案の定、彼女の姿はそこになかった。  しかし、朝日に照らされる田園風景はきらきらしており、それはそれで素晴らしかった。  源治は数枚シャッターを押し、目の前の風景を見つめた。  町を見下ろせるベンチに腰掛け、しばらくぼーっと過ごして、階段を駆け上がった体温を冷やしていた。 「源治さん…」  振り向くと彼女がいた。  小野真澄。それが彼女の名前だった。 「小野さん…今日は珍しいですね」  真澄と会うのはいつも決まって雲海の出る朝ばかりだった。  しかし今日は雲海など出るような天気ではなかった。なのに何故…? 「源治さんが…いらっしゃるかと思って…」  真澄はうつむきながら、恥ずかしそうに言った。  真澄は源治の隣に腰かけた。  しばらく二人は言葉を交わさぬまま、その場に座っていた。  そして源治が口を開いた。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!