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その日は朝から晴れ間が出て、霧は全くなかったが、源治は何の気なしに神社へと上がった。
今日は彼女はいないだろうな…そう思いながら高台へと向かった。
案の定、彼女の姿はそこになかった。
しかし、朝日に照らされる田園風景はきらきらしており、それはそれで素晴らしかった。
源治は数枚シャッターを押し、目の前の風景を見つめた。
町を見下ろせるベンチに腰掛け、しばらくぼーっと過ごして、階段を駆け上がった体温を冷やしていた。
「源治さん…」
振り向くと彼女がいた。
小野真澄。それが彼女の名前だった。
「小野さん…今日は珍しいですね」
真澄と会うのはいつも決まって雲海の出る朝ばかりだった。
しかし今日は雲海など出るような天気ではなかった。なのに何故…?
「源治さんが…いらっしゃるかと思って…」
真澄はうつむきながら、恥ずかしそうに言った。
真澄は源治の隣に腰かけた。
しばらく二人は言葉を交わさぬまま、その場に座っていた。
そして源治が口を開いた。
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