小説家さんと指輪 後編

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「スマホで何するんですか。というか、何でローションなんて持ってきてるんですか」 「だって、婚約初夜だよ」 「結婚初夜はよく聞く言葉ですが、婚約初夜なんてありませんよ」 「え?世の中の人たちってプロポーズしたあとしないの?」 「それは、」  私が言葉に詰まると彼は持っていたスマホを私の頭の横に置いて持っていたボトルのフタを開ける。 「これ、何でこんなところに置くんですか?」 「大丈夫。録音するだけだから」 「何で?」  びっくりしてそのスマホを手に取ると画面には時間のカウントが出ていてその秒数を表す数字がどんどん増えていく。 「心配しなくても自分用だから」 「そういう心配をしている訳じゃなくて」  そう言いながら録音を止めようとするが画面を見てもどこを押したらいいのかが分からなくて戸惑っている間に彼の手がのびてきてスマホを取り上げると元の位置に置いてしまう。 「自分の声、残っちゃうのがイヤ?」 「当然でしょう」 「でもフミさん、こういうの好きでしょ」 「そんなこと、ない」  彼の言葉にそう答えるが、自分が口にした言葉が嘘だってことくらい分かっていた。だって、この歳まで生きてきて、自分の性癖を知らない訳がないんだから。  何で、バレたんだろう。家にそういうことを感じさせるものは無かったはずなのに。  そう考えている間に大河さんはローションを手で温めていたらしく、片足を持ち上げられてそれを後ろの孔に垂らされる。 「っ…」  ちゃんと準備をしてくれたおかげで冷たくはなかったのだけれど、これからするんだなという期待で体が反応して息が漏れてしまう。  スマホで録音って、どれくらいの精度なんだろう。こういう息づかいまで録れてしまうものなんだろうか。 「ん、」  ちらりとスマホのほうに視線を向けている間も彼は着実に準備を進めていて、閉じたそこをぐいと引っ張って開くと垂らしたローションを内側に入れる。 「大河さん、あんまり見ないで、ください」  そこを引っ張った状態のまま彼が固まっているから、そうお願いすると 「フミさん、もっと喋って」  とよく分からないことを頼まれる。
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