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「たいが、さん」
温かいものが足の間を伝うのを感じながら名前を呼ぶと彼の顔が近付いてきて肩に額をつけて短く息を吐く。
「んっ…ぁ、」
彼の息が首筋に当たるのを感じながら腹筋に力を入れるとじんわりと中に熱が広がっていくのを感じて、その感覚に体がびくびくと反応し、自分のそこからも熱が放たれる。
「っぁ…ん、」
体に溜まっていた熱が一気に放たれてがくんと力が抜けて、その余韻がじわじわとゆっくり体に広がっていく。
それを感じながら肩に乗ったままの彼の首に腕を回すと腰を掴んでいた手が離れて体を抱きしめてくれる。
「フミさん」
互いに抱き合った体勢のまま息を整え、呼吸が整いはじめたころに大河さんが顔を上げて私の名前を呼ぶ。
何だろう。心地よい気だるさを感じながらその顔を見つめると彼が勝ち誇ったような表情をしていることに気付く。
「フミさんのほうが先だったよね」
「ち、違います、よ」
彼が勘違いをしているようだったのでそう否定するが、中に入っていた熱をず、と抜かれて言葉が途切れ途切れになってしまう。
「恥ずかしがることないのに」
「そういう訳じゃ」
ないのに。そう言おうとしたけれどその途中でぎゅうと抱き締められて口が自然と閉じてしまう。
彼が、それで喜ぶならそれでいいか。
自分からも彼のほうに体を寄せて目を閉じ、深く息を吸ってゆっくりと吐くと鼻孔に彼の匂いが満ちるのを感じて体から力が抜けていく。
「フミさん、眠い?」
そう問いかけられて初めて自分が疲れていることに気付いて頷くと、まるで子どもをあやすように頭を撫でられる。
「でも、片付けが」
家族に知られる前に風呂場でシャワーを浴びて、洗面所でベットのシーツを洗って。頭ではそう考えるけれどそれと反して体に力が入らない。
「片づけなら休憩してからでも大丈夫だよ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
一時間くらい、寝てから。そう、一時間だけ。
彼の温もりを肌に感じながら、自分にそう言い聞かせて息を吐くとすっと意識が遠のいた。
10話につづく。
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