刻の匣庭

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 もしかすると、この嗜好は先天的なものではなく、あまり幸福とは言えなかった幼少期に由来するものかもしれないが、起源なんて些事なことだ。大事なのは、私が生き物を殺したくて仕方がないという事実である。きっと生まれる時代を間違えたのだ。戦国時代以前に生まれていれば、女だてらに有名な武将として歴史に名を残せていたかもしれない。 どうして生き物嫌いになったのかはわからないが、殺したい理由ははっきりしている。生き物というものは総じて醜いからである。  ああ、違うとも。人間は他の動物を殺して生きているから汚いとか、人間の優しさなんて所詮は上っ面だから醜いとか、そういうことを言いたいのではない。私が言いたいのは、もっとわかりやすく視覚的な話だ。   即ち、内臓である。  内臓の、生き物の腹の中に入っているあの組織群の気持ち悪さはなんだ。どろどろに赤く、厭な臭いを放ち、不気味に胎動する。あんなものが私の中にも入っているのだと思うと、今すぐにでも愛用のナイフで喉から下腹までを切り開いて、中身を掻き出したくなる。まっとうな衛生観念を持っていれば当たり前の欲求と言えるだろう。     
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