刻の匣庭

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 なのに、どいつもこいつもそんな汚らしい内臓を皮膚と肉の下に隠して、不感症ないし鉄面皮のようなツラで生きている。特に人間という生き物は滑稽だ。洋服、メイク、ヘアアレンジ、マニキュア等々。うわべばかり取り繕ってやれ美人だのやれかわいいだの言っている。裡に宿す穢れのことなど忘れて! あるいは顔や体の造形、肉と皮のつき方だけで綺麗とかそうでないとか言っているのである。私に言わせてもらえば、どれもこれも肉ダルマだし、醜いことに変わりはない。絶世の美人と、薄汚いホームレス、それと一振りのナイフを用意してほしい。どちらの人間も不気味に張り巡らされた赤い蔓と、黄色い脂肪と、不格好な果実で出来上がっていて、等しく気持ちが悪いということを、ものの数分で証明してみせる。  ――いずれ私は人を殺すだろう。  平和ボケ面して、安穏と毎日を享受している人間に、自分がどれだけ醜い存在かを思い出させるために、私は人を殺すだろう。それが私の生まれてきた意味で、使命で、この身に宿すただ一つの欲求だ。  けれど、今はまだ早い。  なぜなら、私は高校二年生の女子に過ぎないからだ。  殺しの技術にもう不足はないが、それ以外の面が脆弱すぎる。特に金銭面がだ。せめて大学生になって、できることを増やしてから行動に移さなければ、数人殺して逮捕なんて間抜けな結果になりかねない。たかが人間相手にそれでは割に合わない。せめて百人は殺してから捕まらなくては、自分で自分が許せない。かといって、それまで殺戮嗜好を抑えきれるほど、私は器用でもない。  だから、今日も私は裏山に行くのだ。  裏山に行って、動物を殺すのだ。     
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