刻の匣庭

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 相手は犬か猫がいい。アイツらも人間ほどではないにせよ、その「可愛らしい」とかいう外面で得をしている生き物である。特に子犬と子猫とか、あの媚び切って潤んだ瞳で見上げられると、頭蓋骨を踏み潰して粉々にし、染み出た脳みそを地面に吸わせてやりたくなる。とはいえ今の時代、これを町中でやってしまうと下手すると――実に、本当に、心底馬鹿馬鹿しいことに――逮捕である。けど、山中なら話は別だ。緑の中にある動物の死骸は、食物連鎖の殉教者と判断される。処理も保健所ではなく、スカベンジャーたちが行ってくれる。山の中で動物が死んでいることは、まったくもって自然で、浮かないことなのだ。その上、殺すべき獲物に町中よりはるかに遭遇しやすいとなれば、私にとっては天国といえる。私という存在が唯一許容される地上の楽園。そんな場所が、学校から徒歩十分程度のところにあるのだ。同級生たちが学校帰りにカラオケやファミレスに向かうのと きっと同じ感覚で、私は山へ足を運ぶ。  さて、今日はどんな動物に会えるだろうか。  久々に大物を捌きたい気分だった。このところ虫とか……いいとこ鳥くらいしか殺していない。そろそろ野犬くらい手ごたえのある生き物をバラバラにしたい。わざわざ冬の寒空の下を徘徊しているのだし、それくらいのリターンが欲しかった。  ブレザーのポケットに手を突っ込む。中でうずうずしている折り畳みナイフを手で抑え込みながら、周囲に生き物の気配を探す。 冬の日暮れは早い。まだ午後四時前だというのに、辺りは薄闇に満たされていた。とはいえ、私の視界を阻むほどではない。動物と殺しあっているうちに私は夜目もきくようになっていた。無感動に殺戮性能を向上させ続けている私の肉体は、もはや人間よりは機械に近いのかもしれない。しかし、どれだけ殺戮性能が高かろうと動物に会えなければ意味がない。町に近い山とはいえ、冬山は日が沈むと一気に冷え込む。そうなったら寒さで動けなくなってしまい、殺しどころではない。この時期だと活動限界は六時あたりだ。この時間制限が、近頃大物を殺せていない大きな理由なのだった。     
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