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パートナーを見つけようと思い立った日から半年が経った。
六人の女性と出会った。食事の誘いに十四回失敗した。
男は背中を丸めながら歩いていた。
ふと視線を向けた先の電柱に、看板があった。
『思い出が人生を彩ります』
それは記憶を売る会社の広告だった。
これだ。自分に足りないもの、それは記憶。女性と付き合った思い出だ。
記憶を持っていないから、自信が持てない、だからモテない。
全ては記憶から始まるんだ。
男はそう考えた。
男はその足で、記憶を売ってくれる会社を訪ねた。
「いらっしゃいませ。メモ・リアルにようこそ」
受付の女性が朗らかに対応した。その笑顔を見て、男の心は希望で満ち溢れた。
これから俺は変わる。美しい思い出が俺のこれからを明るく照らしてくれるはずだ。
男はまず、病院の待合室のような場所に案内され、問診票を渡された。
問診票の第一声はこうだ。
『どんな思い出に浸りたいですか』
そこで男は気付いた。そう、これは記憶を『作る』ことなのだと。
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