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「うん。ありがとう」
そして。
彼との会話が終わってしまう恐怖に苛まれ、頭の中が原色の絵の具で塗りつぶされる。
沢山の色がバラバラに混ざって渦巻いて、私の頭をぐちゃぐちゃにする。
いつか、いつか、彼のぬくもりは永遠に失われるのだろうか。
私の中から永遠に消え去ってしまうのだろうか。
そんな事まで考えてしまう。
「うん、またね……」
電話が。
終わる。
彼と私の間にぬくもりを感じられない距離という名の大きな壁が立ちはだかってくる。
私達の愛は、この壁を超えられないの?
ぬくもりを忘れてしまうの?
消えてしまうの?
ぬくもりと愛が。
私はスマホを握りしめ、そうして一つ二つとしずくを目ふちからこぼす。
電話が切れる直前、彼が静かに告げる。
「……そうだ。前にぬくもりが感じられなくて寂しいって言ってたよね。大丈夫だよ。ほら、今、スマホを持ってるだろう? スマホが温かいだろう?」
スマホ?
「僕らが長い時間話していたからさ。スマホが温かくなっているはずだよ」
スマホ?
……温かい。うん。温かいよ。
「僕らが長話をした証拠。だからスマホが温かいんだよ。感じるだろう?」
そうか。
このスマホの温かさは彼との愛を育んだ証拠。
だから彼のぬくもり。
「今は、その温かさで我慢してね。大学を卒業して夢を叶えたら、きっと君を迎えに行くからさ。それまでもう少しだけ待ってて。そしたら君の夢を叶えてあげるから」
……結婚して下さい。
って君に言うからさ。
彼は決してハッキリとは言わなかったけれども、私はそう言われたような気がした。
そして彼から電話が切れたあともずっとスマホを握りしめていた。
「温かい」
と、いつまでも、いつまでも。
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