ぬくもりを求める

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 ビニール袋を下げて帰路に着く。ベルと過ごせる時間はそんなに長くない。ならば、その余生をできる限り一緒に楽しみたいと思うのが人情である。駅の改札をくぐり、ホームで電車を待つ。すぐに電車が来るのが都会のいいところだ。帰宅時間ということもあり、電車の中はサラリーマンやOLたちで溢れている。座席は当然ながらすべて埋まっている。営業回りで疲れ切った足には辛いが、仕方がない。つり革を握りしめた。 三十分ほど電車に揺られ、自宅の最寄り駅にたどり着く。ここから歩いて二十分ほどの場所に、私の住むマンションがある。一時間の通勤時間は都会の基準でいけばいい方だろう。ペット可のマンションを求めてさまよった結果である。家賃の割には手狭と親や友人には言われたりもするが、ベルと暮らせるのだからそんなことは気にならない。  私がベルにここまで依存するようになったのは、高校二年生の頃からだ。クラス替えで一年生の頃の友人とは離れ離れになり、新しいクラスには気の合いそうな人は見つからなかった。積極的で明るい性格の子が多く、遊びの企画を誰かが立てれば誰かが参加したいとすぐさま声をあげた。内気な私にわざわざ声をかける子はいなかったのだ。うじうじしながら楽しそうに笑うクラスメイトを見つめるだけの日々だった。  元々帰宅部だったため帰宅時間は早かったが、友人がいなくなったため寄り道もすることがなくなり、もっと早くなった。共働きの両親は夜まで帰ってこない。そのため、家に帰っても話をする相手もいない。  結果、私の話し相手はベルだけだったのである。  抱き上げて、そのぬくもりを感じながら、ベルに話しかけた。クラスでの悩み事、不安なこと、将来のこと。何も言わずに悠然とした猫の仕草に、自分の悩みの小ささを感じていた。
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