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燈子だ。
少し、大人びた。緩くパーマをかけた髪が、肩まで伸びている。動揺しているのを知られたくなくて、恨み言が口を突いて出た。
「……迎えに行こうと思ったのに、電話に出ないから」
「あの時置いていった、仕返しです」
彼女はぺろっと舌を出す。
「カーディガン返して?」
俺は鞄から彼女の蒲公英色のカーディガンを取り出し、肩にかけてやる。やはり俺なんかより似合っている。
そのまま手繰り寄せて彼女の身体を抱き締め、石鹸の香りと、ぬくもりに顔を埋めた。
「俺さ、この先一生音楽で食っていける保証は無いんだ。だけど、一緒に居てくれる?」
彼女は「何を今更」という含み笑いをする。
「居ます。攫っていって」
そのまま見つめ合い、引き合うように唇を合わせた。
あの曲の最後の歌詞は、「もし今の私が貴女に会えたなら、攫って二度と離さない 離す私を許さない」
あんな未練を味わうのは、一度で懲り懲りだ。
だから俺は、もう二度貴女を離さない。
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