四章

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一度、肩にかけたカーディガンに視線を落としスタンドマイクに向き直る。 目を閉じて、別れたあの日を思い出す。そして、息を吸って、(ことば)に乗せて、感情を、歌う。 好きだと言って、別れてしまった私は弱いね そんな私に、形見を残した貴女は狡いね 残り香はとっくに消えているのに 今でも私は、未練を抱えたまま…… 演奏が已むと、体育館がしいんと静寂に包まれた。 聞こえるのは俺が息を整える音だけ。 「……ありがとうございました」 俺が頭を下げると同時に、拍手と歓声が爆発した。むわっとした熱気が、心地よい。 「ありがとう、ございました」 届いただろうか。この瞬間に立ち会った人達と……彼女に。
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