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公演が終わった後、とりあえずバイトしていた楽器店に行ってみた。
「えっヤマブキリントさん、ですか?」
燈子と同じ制服を着た若い女性が俺を見て大きく目を見開く。一応、俺は口元に人差し指を当てた。
「初めまして……昔ここでバイトさせていただいてまして。店長はいますか?」
「はっはい! 連れてきます!」
女性はドタドタと音を立ててバックヤードに消える。まもなく店長が浮き浮きした足取りでやってきた。
「えー! 山吹くん! 有名になったねぇ!」
「まだまだですよ。皆さんお変わりないですか?」
「敬語もちゃんと使えるようになったねぇ、皆元気だよ」
「良かった……西依さんも?」
「西依さん? 彼女は辞めたんだ。ほんの一か月前」
目の前が真っ暗になった。
「……そうですか。寂しいな」
彼女の連絡先は消してしまった。
「あの、良かったら連絡先を聞いてもよろしいですか? ちょっと用事があって」
「いいよ、ちょっと待ってて」
店を出た後、彼女の携帯にすぐに電話を掛ける。
その日一日、彼女の声を聞くことは叶わなかった。
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