四章

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燈子だ。 少し、大人びた。緩くパーマをかけた髪が、肩まで伸びている。動揺しているのを知られたくなくて、恨み言が口を突いて出た。 「……迎えに行こうと思ったのに、電話に出ないから」 「あの時置いていった、仕返しです」 彼女はぺろっと舌を出す。 「カーディガン返して?」 俺は鞄から彼女の蒲公英色のカーディガンを取り出し、肩にかけてやる。やはり俺なんかより似合っている。 そのまま手繰り寄せて彼女の身体を抱き締め、石鹸の香りと、ぬくもりに顔を埋めた。 「俺さ、この先一生音楽で食っていける保証は無いんだ。だけど、一緒に居てくれる?」 彼女は「何を今更」という含み笑いをする。 「居ます。攫っていって」 そのまま見つめ合い、引き合うように唇を合わせた。 あの曲の最後の歌詞は、「もし今の私が貴女に会えたなら、攫って二度と離さない 離す私を許さない」 あんな未練を味わうのは、一度で懲り懲りだ。 だから俺は、もう二度貴女を離さない。
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