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「そりゃあ……そう、なんだろうなあ」
俊介は変な相槌を打った。
「けど、橘だけじゃないだろ、手が冷たいの」
「そうなんだけど。私が、極端に冷たくて」
「ふーん。べつに悪気はないんだろ?」
「まあ……うん。虐めとかじゃないよ。もはやネタみたいなもので、友達は楽しそうだし、私もにこにこして」
皆が温め合っている中に私も手を伸ばし、皆が私から体を引いて笑う。私も、無意味に笑う。
そう、分かっている。だから文句は言っていない。それでも、やっぱり私を除け者にされている事実は私の心の隅をチクリと、しっかり刺してくるのだ。そしてその感情に誘われどうしても思い出してしまう、もうひとつの冗談。
自然と自転車を握る手に力が入った。
すると不意に、俊介が立ち止まった。体制を整えるように体を揺さぶり、大きく息を吐く。白い吐息が広がり舞って、消えた。
「大丈夫?」
私は我に返って彼に声を掛けた。「ごめん。少し歩くの速かった?」
「いや、」俊介は苦笑する。「大丈夫。話の続き、聞くよ」
そう歩き出した彼の歩調に合わせて、私も自転車をゆっくりと押す。
こんなどうでもいい話、関心なんてさらさらないだろうに。それでも続きを促してくれる、その優しさに私は甘えた。
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