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「それでね……そう、指先が冷たい人は、心が温かいんだって。そういう話、聞いたことある? 友達の一人が私のことをそうフォローしてくれたの」
「へー。そうなの? 聞いたことなかった」
単調な相槌。俊介にとってはこんなの大した話ではないかもしれない。だけど私にとっては、ちっぽけなコンプレックスに僅かな光明が差したような、そんな感覚を確かに味わったのだ。
だがそれも、刹那の話。
「だけど指先が温かい人は、心の温もりが溢れているから指先まで温かいんだって、そういう話になっちゃった。全身が温もりに満たされているんだって。私とは違って」
指先まで届かぬ私の心の温もりなんて、所詮その程度のものなんだって。
自分で言っていて、何だかやるせない思いが込み上げてくる。言い返せない悔しさや、自分の器が矮小だと言われたような虚しさ。友人に悪気がないことは分かっている。こんなことで傷つく自分がどうかしているし、冗談だと吹っ切れないのは、ただただ私が馬鹿で意地っ張りなのだろう。だけどどれだけ自分に言い聞かせても、溜飲を下せない。
「なるほど……ふうん」
そうぽつりと俊介は呟いた。
「じゃあ、生姜を食べて体を温めればいいんじゃない?」
「え?」
「避けられるのは、まあしょうがないよ。橘だって自分から冷たいものに触らないんだろ? 避けているのは橘じゃなくって、『自分を温めてくれないもの』なんだし」
「……そうだね。そうする」
違う、という言葉を呑み込んで、なんとか別の言葉を絞り出す。
想像以上に低い声が出てしまった。
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