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正論なのだが、そんな言葉が欲しかったわけではきっとないのだと気付くのは今更。同情が欲しかったのか、慰めの言葉が欲しかったのか。はたまた、友人への非難が欲しかったのか。どうやら私の器はやはり、所詮その程度なのだ。勝手に惨めな気持ちになって、本当に馬鹿らしい。
この話はもう打ち切った方がいい。話題を何か変えようと考える私の隣で再び、俊介が歩みを止めた。
「死人のそれ、ね」
そう呟くと、どうしたの、と尋ねるより早く、彼はバランスを取って私の自転車の後輪、金属製の泥よけをぎゅっと握る。驚いた私の方を見て彼は一言、
「冷たい」
と言った。
当然だ。
金属のそれが、まるで氷のような冷たさであることは容易に想像できるだろうに。彼の真意を推し量ることができず何も言えないでいる私に近づき、そのまま俊介は私の左手に触れてきた。虚を突かれ、泥よけで受け継いだ彼の手の冷たさもあって私は反射的に手を引っ込めた。私が言葉を紡ぐ前に俊介はひとり頷く。
「ん、あったかいあったかい」
「え?」
「橘の手。冷たいけど、まあ無機質なものよりあったかい」
「これと比べて?」軽く当惑したまま、泥よけを指差す。
「そう」俊介は頷いた。
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